大判例

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福岡高等裁判所 昭和23年(ろ)13号 決定

一、当事者

抗告人 ○スマ

抗告人 ○山チ○

抗告人 ○嶋元○

抗告人 ○原フ○

二、主  文

原審判を取消す。

本件を玉名家事審判所に差戻す。

三、理  由

本件抗告理由第一点の要旨は、

抗告人○スマは被相続人戸主亡○○平の妻、同○嶋元○は三女、同○山チ○は四女・同○原フ○は五女であるが、右○平は昭和二三年三月七日午後二時最後の住所である抗告人スマの肩書住所で死亡した。しかして抗告人等は女子であつて法規に暗く、民法の改正を知らなかつたので、從來のように、戸主の死亡の場合には長男だけが相続するものであり、妻及び既に結婚して他家に在る子の抗告人等女子には相続の権利などはないものと思つていたのである。右相続権のあることを知つたのは、被相続人の長男○元生が玉名税務署員から相続税を抗告人等と共同名義で納付せよとの注意を受けた同年七月一日であつた。そこで抗告人等はいずれも相続の放棄をしたいので、同年八月十日玉名家事審判所に放棄の申述をしたのであつたが、同月十九日却下の審判を受けた。

ところで、右審判書にはその前文に「右相続放棄の申述はその理由なきものと認め左の通り審判する」とあるだけで主文に対する何等の理由も附していないので、却下の審判を爲すに至つた法律上の理由は、これを知るのに由がないのであるが、元來相続の放棄は、相手方に対する権利の主張でなく、個人の権利の放棄であつて、從つて民法第一條の趣旨に反しない限り、権利の処分は個人の自由であるとの原則によつて処理されるべき性質のものであるから、相続の放棄が著しく公共の福祉を害し、あるいは公益に反する等の理由がない限り、その申述を受理することを原則とし、ただ民法第九百十五條の期間の懈怠等の特別の理由のある場合だけに限つて却下すべきものであろう。さすれば、申述却下の原審判は期間の懈怠を理由としたものとみる外はない。

しかしながら、民法第九百十五條は「相続人は自己のために相続の開始があつたことを知つた時から三箇月以内に、單純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と規定し、「被相続人の死亡の時から」とは規定していないし、抗告人等が、「自己のために相続の開始があつたことを知つた時」は、前記のように昭和二十三年七月一日であるから、同年八月十日に爲した抗告人等の相続放棄の申述はもとより期間内のものである。しかるに、原審判所がこの点について何等の審究を爲すことなく、漫然申述を却下したのは、審理不盡の違法をおかしたものといわなければならない。原審判は到底取消をまぬかれないものと信ずる。

というのである。

よつて民法第九百十五條について檢討する。同條にいわゆる「相続人が自己のために相続の開始があつたことを知つた時」とは、相続人が相続開始の原因である被相続人の死亡の事実を知るだけでなく、更らにこれが爲に自己が相続人となつたことを知つた時を意味し、法律の不知又は事実の誤認等のため自己が相続人となつたことを知らない間は、相続人はまだ自己のために相続の開始があつた事を知らないものといわなければならないから、同條所定の期間はその進行を始めないものと解しなければならない。記録によれば、本件相続放棄の申述書中に、家事審判規則第百十四條第二項第三号の「相続の開始があつた事を知つた年月日」として「民法の改正を知らなかつたので、昭和二十三年七月一日に相続税を納付するに当り初めて自己のために相続の開始があつたことを知るに至つた。」旨の記載があり、このように自己が相続人となつたことを知らなかつた旨の事実上の主張のある場合においては、その事実の有無を審究判断しなければならないのである。原審判所が思いをここにいたし、職権探知の手続として、必要な事実の調査及び證拠調査したとすれば、あるいは本件申述書を受理したやもはかり知れないのである。しかるにこの点を看過し、漫然本件申述を却下した原審判は到底違法のそしりをまぬかれない。よつて、他の点に対する判断を省略し、家事審判規則第十九條第一項に則り、主文のように決定する。

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